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任務を終え、家に帰ると、サスケが居間でうたた寝をしていた。サスケの傍には先ほどまで読んでいたのであろう巻物が転がっている。
起こさないようそっとサスケの傍らに座り、まだ少年期のあどけなさを残した寝顔を見つめふっと頬が緩んだ。サスケの頭を撫でながら彼が先ほどまで読んでいた巻物を手に取る。蔵の中にでもしまってあった古いものなのか、ところどころ黄ばんだり、黒ずんだりしていた。そう言えば昔自分も蔵に入ってはうちはの古い文献を漁っていたなと思っていた時、
「サスケ、ちょっとお使いにいってきてくれない?」
と言って母が台所から顔を出した。
「あら、イタチ。帰ってたの?」
暗部の不規則な任務のせいで、オレの帰りは予測のつかないもの、というのが家族の中で暗黙の了解になっている。そんなオレが夕飯までに帰っていることに母は珍しいものを見た、という顔をした。
「ああ、予定より早く片付いたんだ」
「そう。…あら?サスケ、寝てるの?」
「オレが戻った時には寝ていた。疲れてるんだろう。買い物、オレが行くよ」
そう言うと、サスケがごろりと寝返りを打ち、ううんっと猫のように体を丸め、ぼんやりとした瞳を彷徨わせた。
「いいよ、サスケ。そのまま寝ているといい。」
起き上がろうとするサスケの頭を撫でてやると、半分夢見心地のサスケは自分の頭を撫でるオレの手を払い、起き上がった。
「兄さん!?いつの間に帰ってたんだ?今何時だ?」
ときょろきょろするサスケに「まだ4時だよ。サスケ」と答えると、サスケは愕然とした。
「クソ…!母さん、買い物はオレが行く。イタチ、アンタはゆっくりしてろ」
と母からメモとお金をむしり取るとバタバタと玄関に走っていった。
「おい、サスケ!」
ひどく慌てたサスケの様子が気になって、オレは後を追った。
玄関先でサスケはまだ毒づいていたが、オレの姿を見るなり
「なんだよ、ゆっくりしてていいっていっただろ?」
といってオレを居間へ戻そうとぎゅーっと肩を押してきたので、体を反転させて躱してやった。
「別にそんなに疲れてない。たまには一緒に買い物に行くのもいいだろ?それともオレと出かけるのはいやか?」
「別にそう言うわけじゃ…」
「じゃあ、決まりだな」
どこか気まずそうに視線を彷徨わせるサスケの頭をくしゃりと撫でた。
傾いていく陽を背に二人並んで歩く。
ぽつりと灯された家の灯りの中から夕餉の支度をする匂いが漂ってくる。
夕暮れの町は温かくて胸の奥を擽る不思議な懐かしさと一抹の寂しさを思い起こさせる。
隣を歩くサスケは家を出てからだんまりのままだ。
一体何が気に入らなかったのだろうと、なんとなく会話のきっかけにならないものかとサスケの髪をくしゃりと撫でると「なんだよ」と睨まれた。会話のきっかけを作ろうとしたオレの浅はかな計画は一瞬で破綻してしまった。
サスケがこんなふうにだんまりするときは決まってオレに何か隠している時なので、しばらくそうっとしておくことにした。
結局、目的地の木の葉マートまで何も会話をしないまま歩いた。
中に入ると、夕飯の材料を買い求める主婦で賑わっていた。普段、この時間に買い物に来ることのないオレとサスケは人の多さに、若干、奥に踏み出すことを躊躇った。しかし、この後夕飯を作る母のことを思えば、もたもたしているわけにもいかない。
「サスケ、オレからはなれるなよ」
隣であからさまに人ごみにうんざりした顔をしていたサスケの手を引くと「子ども扱いするな!」と手を振り払われた。
かごとカートをとり、母に渡されたメモを見ながら二人で店内を歩く。
二人ともこういうスーパーでの買い物になれていないせいか、醤油1本買うのにうろうろと店内をさまよった。
青果売り場のところでリンゴを選んでいたら先程まで隣にいたはずのサスケがいない。
辺りをくるりと見渡してみてもサスケの姿は見当たらない。
下手に動くとかえって見つからないだろうか?そう思案していると、背後から棚のリンゴに手を伸ばす主婦が何を突っ立っているんだと迷惑そうな顔でオレを見たので、オレは適当にリンゴを1つ掴んで青果売り場を離れた。
人のあまりいない場所で、カートを引き寄せもう一度あたりを見回すが、やはりサスケの姿は捉えられない。一体どこへいったのだろうか。
買い忘れがないか母から受け取ったメモを広げて、かごの中の品物と見比べる。
今しがた放り込んだリンゴ、トマトにキャベツ、醤油、みりん、父の晩酌用の酒。母に注文された品々は男二人で買い物に行くことを想定してかここぞとばかりに重たいものばかりだ。
ひとまず、長い列のできているレジに行けばサスケがオレを見つけることもあるだろうと、オレはカートを押した。
会計を済ませ、買った品を袋に詰めていたところでサスケと会えた…というか随分オレを探し回っていたようで、
「アンタ、なんで果物のとこにいねぇんだよ!」
と、結構理不尽なことを言われた。
「先にいなくなったのはお前だろう?お前とはぐれてから随分時間が経ったと思うが?」
「う…」
正論なので言い返してこない。代わりにサスケが弁当箱くらいの大きさの包みを差し出した。包装紙には甘栗甘の文字。
「…悪い、これ…買いに行ってた」
「サスケ?」
「き、今日は兄さんの誕生日だろ!どうせ、覚えてないんだろうけど…」
ああ、そういうことか。
サスケ、リンゴは痛むから一番上に入れてくれよ。
「確かに、忘れていた」
毎年誕生日はサスケが、家族が思い出させてくれる。だから自分で覚えている必要がない。オレにとって誕生日は毎年こんなふうに思い出させてくれる家族がいることの幸福を実感する日だ。
「そんなことだろうと思ったよ」
荷物を手にサスケがぷいっと背を向け、出口に向かってさっさと歩いていく。その後姿を追いかけながら、オレは包みを撫でた。