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概要:「NARUTO」女性向け二次創作テキスト共同サークル企画・連絡所  傾向:うちはイタチ×うちはサスケ

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「たったこれだけだ。何も難しいことはない」

そう言って教壇に立つ中忍の教師がかっとチョークを置いた。

そのあまりにもあっけなく、簡潔なのに明瞭な説明にイタチはぽかんとした。

学んでいるのは医療忍術の基礎。忍を志すのであれば致命傷を負わせる場所も、命を繋ぎとめるための治療法も知っていなければならない。基礎と言えど、決して簡単な内容ではない。しかし、この教師は授業中何度もポイントとなる場所で「たったこれだけ。覚えるのはこれだけだ」、「大事なのはこれだけ」と言った言葉を使った。普段であれば難しいと感じるはずの授業も、皆がどこかリラックスして聞いていたように思う。

今まで他の授業で教鞭をふるっていた教師たちは大した内容でもないのに妙に小難しい言葉で大げさに説明し、生徒を困惑させていた気がするのだが。

 

授業の終わり、イタチは教室を出ていく教師を呼び止めた。

「先生」

「イタチか。どうした?」

「先生はどうして『たったこれだけ』って言い方をするんですか?」

「あはは、そうだな。イタチにはいささか易しすぎる言い方だったかもしれないな」

そう言うと教師はぐりぐりとイタチの頭を撫でた。

「いえ、違います。むしろ・・いいと思います。みんな医療忍術は難しいって思いこんでるから。たったこれだけ覚えればいいって言われれば、難しいことじゃないって思える」

「そうか、ならよかったよ。まさにお前が言った通りなんだ。苦手な科目ができる原因ってさ、自分の得意不得意だけのせいじゃないんだ」

周りの人間がこの課題は難しい、自分はとても苦手だった。そういう意見を聞いているうちに知らず知らずのうちに苦手意識が芽生える。いざ、その課題に直面した時、無意識のうちに植え付けられた他人の意見によって自分にもできないかもしれないと思い込み、本来理解できるはずのものが理解しにくくなってしまう。それならば、その逆をすれば、多少難しい内容でも、マイナスのイメージを減らしてやることで身に付きやすくなるんじゃないか、そう考えてのことだと言った。

「思い込み・・」

「そう。人は他人の意見によって他人と自分を比較して、自分を認識する生き物だからね。時に他人から与えられた意見やイメージを自分の中にもあるものと思い込む。それは得意不得意にも影響を与えてるってのが私の意見だ。なにが好きで何が嫌いか、何が得意で何が不得意か。自分の中にある「本当」を見つけることっていうのもなかなか難しいことなんだと思うよ・・・って話が逸れてしまったね」

ごめんごめんとすまなさそうに笑うと、教師はイタチにだけ聞こえる小さな声で、

「とまあ、えらそうなことを言ったけど、これは私自身が自分のためにやってたことなんだ。私はもともと勉強が得意でなかったから、どうにか切り抜けられる方法がないかって思っているときに思いついたんだ。楽に勉強したかっただけなんだよ。でも他の奴らには言うなよ。」

そう言われてイタチは思わずふっと笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

安い宿のベッドに寝そべり、咳きこむ胸を押さえ、はあっと息を吐いた。

雨が薄い天井を叩く音がする。壁に掛けられた時計に目をやるが長針と短針の位置がぼやけて良く見えない。

また「進んだ」な、と目を擦った。

自分の中を這い回る不穏な影が日に日に存在を濃くしていくのを感じながら、イタチはふっといつかアカデミーの教師が使っていた言葉を思い出す。

 

 

 

たったこれだけ

 

俺がサスケのためにすべきこと

 

「たったこれだけ」

 

俺がサスケにしてやれること

 

たったこれだけ、だ。


たったこれだけ
いいようにも悪いようにも使える言葉ですね。
兄さんにとってはどちらだったのか。
もう一つのテーマは「思い込み」

「たったこれだけ」は高校の時、とっても尊敬していた英語の先生が実際に授業中に頻繁に使っていた言葉です。

少なくとも私は先生のこの言葉と授業で英語に対する考え方が変わりました。

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