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副題「兄さんは図書委員」
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最終下校五分前を報せるチャイムが厳かに響く。
静粛を求められる図書棟もこの五分ばかりはさざ波のようにざわめく。
古い造りだが豊富な蔵書を誇るこの学園の図書棟は、本来読書家の学生らのためのものだが、十二月のこの時期は大学受験を控える高等部の三年生が自習室代わりに使うことが多い。高等部生を示すブレザーの制服を纏った生徒らは手早く机上を片付け、三々五々図書棟を後にした。
むろん、イタチが座る貸出カウンターを利用する者はいない。
貸出の利用者といえば、高等部の一・二年生か、あるいは詰襟・セーラー服の中等部生くらいだが、今は受験生に遠慮をしてかその数も夏ごろからはぐんと少なくなった。
その数少ない貸出手続きを終え、イタチは人気も絶え、がらんとした図書棟を見渡した。
本チャイムまであと一分もないだろうこの時こそ、図書棟に真の静寂と静謐が訪れる。細工を凝らしたアーチ窓から見える黄昏が冬枯れの校庭に映えて美しかった。
イタチ自身、高等部三年に籍を置く受験生であり、図書委員だからといって、なにも貸出業務に携わることはないのだが、第一志望の偏差値には随分と余裕がある。ストレートで合格をするだろうことは間違いない。
本チャイムが鳴る。最終下校の時刻だ。
放送委員のお決まりの案内が学園に流れる。
すると、かたん、と席を立つ音が響いた。
目をやれば、図書棟の隅、一番端の机に座っていた最後の一人がようやく席を立ったところだった。カウンターのイタチからはその後ろ姿しか見えないが、本を読む律した背筋はいつも美しいと思っている。わが弟ながら、だ。
「これ、借りる」
中等部の詰襟に身を包んだサスケは、カウンターまでやって来て先程まで読んでいた一冊を差し出した。タイトルからして推理ものの小説だろう。この前までは熱心に科学雑誌を読み耽っていた。
受け取り、手順通り手続きを済ます。
それを待つ間、学園指定のコートに袖を通していたサスケに、
「返却は一週間後の水曜日だ」
と決まり文句を添えて本を渡すと、彼は受け取りながら今週の土曜日まででいいと答えた。
土曜日。
それはイタチがカウンターに座るもうひとつの曜日だ。
そうして今日彼が返却しに来た本は、そういえば先週の土曜日にイタチが貸出の手続きをしてやったものだった。
「…じゃあ」
サスケは足下に置いていた鞄を持ち上げ本を仕舞うと、くるりとカウンターに背を向けた。それから、そのまま足早に去ろうとする。
呼びとめたのはイタチだった。
サスケと呼び、手招きをすれば、
「何だよ」
と如何にも不服げを装って弟はカウンターの傍まで戻って来る。
イタチはカウンターの中に置いてあった自身の鞄からマフラーを取り出した。
「一緒に帰るなら、正門で待っていろ」
図書委員の自分にはまだ少々の片付けと戸締り、それから図書棟の鍵を職員室へ返却するという仕事がある。
外は寒い。コートだけでは足りないだろう。
マフラーを巻いてやる。
「……」
サスケはうんとは言わなかった。
だがマフラーを口元まで上げ、それに隠すようにして微かに頷くということくらい、イタチはとうに知っている。
サスケがこの図書棟に訪れるのは決まって水曜日と土曜日、イタチがカウンターに座る日だ。けれど、離れないように結んでしまっているのは、
(おれのほうかもしれないな)
イタチはイタチのマフラーを巻いたサスケの後ろ姿を見送り、それからカウンターに置いたままの貸出用紙に書かれた「うちはサスケ」の文字をそっと指先でなぞった。
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萌える展開って何かないですか、と訊ねたところ「図書委員」という答えが返って来たので書きました。これであと1つか2つはネタを書きたい!