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寝返りと打つと、なんだかやわらかくて暖かい何かに触れる。
心なしかベッドが狭い・・。俺がそっと目を開けると・・
隣でイタチが寝ていた。
「なっ・・!?え?!あ、えええ!?」
思わず飛び起きる。
うそだ。あり得ない!
だって兄さんは・・3年前に家を出ていったきり一度も帰ってきていないのだ。
それに・・ここはどこだ?!俺の部屋じゃない。見たことのない天井、見覚えのない机にクローゼット、そして隣で眠る兄さん。
「これは・・一体・・」
俺がベッドの出ようとすると、隣で寝ていた兄さんが目を開けた。
「んー・・サスケ、起きたのか」
「え、あ・・うん?ああ。」
なんだか妙に腐抜けた声だな。
「まだ7時じゃないか。今日は日曜日だしもう少し寝ていよう」
そう言って、見たこともないような顔でふにゃっと笑い、俺の衣服の裾を引いた。
なんだ、この心臓が掴まれるような感じは・・!?
「兄さん・・どうしてここに・・?」
「おかしなこと言うんだな。ここは俺とお前の家じゃないか。」
そう言ってふふっと笑った。
「だって・・兄さん家を出て行って・・一度も帰ってこなくて・・」
「何を言ってるんだ?サスケ。寝ぼけてるのか?」
そう言って俺の頬を撫でた。
温かい。兄さんの手だ。
そのぬくもりだけで胸が熱くなって、鼻の奥がつんと痛んだ。
「兄さん・・帰ってきたんだな・・兄さん」
「俺はどこにもいかないよ、サスケ」
「本当だな?本当にもうどこにもいかないんだな?」
「ああ、俺はずっとここにいるよ」
そう言ってイタチはなんかちょっと小さくなったような気がする弟の体を抱きしめ、サスケも応えるようにイタチの背に腕を回した。
サスケ、その兄さんほんとにどこにもいかないからね!
あと2人くらいサスケを別世界に飛ばしてみようかと。
イタチは1年前まで公務員だった。採用された時から将来を期待され、同期に比べると出世も早かった。ところが、どういうわけか1年前のある日仕事を辞めたと告げられた。
始めは何かの冗談だと思っていた(4月1日言われたし)
しかし、次の日もその次の日も仕事に行かないイタチの姿を見て、これはただ事ではないと当時同じ部署の上司だったはたけカカシに連絡をしたら突然「今日でやめます」と言って辞職届を出して出ていったということであった。
さぞ迷惑をかけただろうと思い兄の勝手なふるまいを詫びると
「んー実は面白いくらい困らなかったんだよねー」と言われ、それはそれでショックだったのだが、どうやら前々からやめる準備をしていたらしく、業務の引継ぎや今後の指針などはすべて周りに指示を出し、身辺をきれいにして出てきていたらしい。
「ま、優秀な奴がいなくなるってのは職場にとってはダメージだよね」はははと笑っていた。
それから思いつく限りの人に電話をしてみたが誰もイタチが仕事を辞めた理由を知らなかった。
イタチ自身1年経った今でもその理由を言おうとしない。だから俺も聞かないことにした。
それはいいのだ。それは。
問題は1年経ったのに仕事に就かず一日中家でごろごろしていることだ!
朝は俺より遅く起きてくるし、日中はずっとゲームしてるかネトサしてるか寝ているかなんていい加減飽きるだろう?!
なあ、飽きたよな?頼むから外でてくれ就活してくれ働いてくれ。
うそだ、こんなの兄さんじゃないと、俺は何とか尻を叩いてハロワに連れて行こうとしたり、バイトでもいいからと求人雑誌を買ってきたりしたが駄目だった。
今ではもうそれはそれは引きこもりライフを満喫している。
最近なんて寝ころびながらゲームする技を身につけやがった・・!
社会人になったとはいえ、まだまだペーペーの俺の給料で二人食べていくのは厳しい・・と思っていたら、だ。給料日に通帳記入しに行って驚いた。
貯金が増えていたのだ。
見たこともないような桁が打ち込まれた時はさすがに窓口に駆け込んで「振り込まれ詐欺にあったみたいです」と言いかけて、いやいやいや、それはおかしいだろうと思いとどまった。
家に帰ってからイタチに問いただすと、イタチは「株とFXはじめました、テヘペロ」と真顔で言った。
とりあえず、殴ってみた。(避けられたけどな・・!ギリ)
株とFXで稼ぎまくる無駄にかっこいいニートってなんだよ。
もうホントやだ。世の中不公平。
「アンタを見てると真面目に働いている自分が馬鹿みたいに思えてくる」
俺は通帳を放り投げ、ソファにごろりと寝そべる。一日中ここでごろごろしているイタチのにおいがする。
「許せ、サスケ。これが才能だ」
といってイタチは俺のでこをこついた。
かちーーん
ムカついたのでイタチがテレビの上に飾っていた須佐能乎フィギュアをへし折ってやったら泣いた。兄さんめっちゃ泣いた。
どうしよう。
玩具壊されてこんなに泣く大人がいるんだな・・
とりあえず、ごめん。
・・・なんて言うと思ったか!!
ざまぁみろ!悔しかったら働け!クソ兄貴!
まさかの第2弾。たぶんこれ以上は続かないです。
「母さん!!母さん!!」
普段、あまり動揺や喜怒哀楽を表情に出したり、言葉にしたりしないイタチが血相を変えて駆けてきた時には何事かと、洗い上げたお皿を割りそうになった。
「どうしたの?イタチ」
尋ねるとイタチは私の腕を掴み、「早く来て!!」と私を台所から連れ出した。
顔を真っ青にし、涙が目尻に溜まって今にも零れそうで、彼の必死な姿に動揺しながらも珍しいものを見た・・と思ってしまった。
イタチに連れられて居間に入ると、サスケが泣いていた。その胸元や床が吐瀉物で汚れている。
「母さん・・サスケ・・急におなかが痛いって・・それから・・」
「吐いちゃったのね」
私はサスケの額、頬、顎の下と手をあて、体温を確認する。いつもより熱い。
「風邪かもしれないわね。お腹の」
この歳の男の子によくあることだ。
「イタチ、お風呂場にサスケの着替えを持ってきてちょうだい。それからタオルも」
私はサスケを抱き上げると風呂場へ連れていき、汚れた衣服を脱がせた。
口の周りや手に付いた汚れを温かいタオルで拭いて、イタチが持ってきてくれた服に着替えさせた。
さっぱりして幾分か落ち着いたのか、鼻をすんすんさせながらも私の腕の中でおとなしくしていた。
イタチはまだ青ざめた顔のまま腕の中でうとうとし始めたサスケを見ていた。
「今日はもう遅いから明日病院に連れていくわね。」
私はイタチの頭を撫でてやると、イタチはおずおずと顔を上げた。
「サスケ・・死んじゃったり・・しない?」
「大丈夫よ。すぐ治るわ。ありがとう、イタチ。知らせてくれて」
そう言って抱き寄せて、まだ小さな彼の背中をとんとんと叩いた。すると、珍しく抱きついてきて、「うん」と額を私の肩に擦りつけた。
翌日、診察を終え、家に帰るとイタチが玄関で待っていた。
「サスケは?」
「ただの風邪だって。さぁ、イタチ手伝ってちょうだい」
そう言って私はリンゴの入った袋をイタチに渡した。
「サスケ、口開けて」
今のちゃぶ台でイタチがリンゴのすりおろしをサスケに食べさせてやっていた。昨晩たいそうに吐いてしまったサスケはお腹がすいていたのか、イタチから差し出されるスプーンに齧りつくようにもぐもぐ口を動かしていた。
「お腹の調子が悪いときはリンゴとお水。それが一番」
イタチはコクリと頷き、サスケはぽかんとした顔で私とイタチのやり取りを見ていた。
「あ~痛ぇ~これはアレだな。昨日食ったもんが悪かったな、うん」
「そ、そ、そんな~~~先輩~死んじゃいやです~~~」
「死なねぇよ!!」
デイダラとトビが相変わらずのやり取りをしているところへ通りがかるイタチと鬼鮫。
「腹の調子が悪いときはリンゴと水が一番効くぞ」
すれ違いざまにイタチがそう言うと
「あん?なんだそりゃ」
と怪訝な顔をされた。
「サスケはいつもそれで・・」
「あーーー!!!いらねぇ!!アンタのサスケメモリーほんといらねぇ!!よそでやれ!!」
そう言ってどすどすと外へ出て行ってしまった。
「鬼鮫、腹の調子が悪いときは・・」
「はいはい、リンゴとお水ですね。今度試してみますよ」
「サスケはあれで元気になったぞ」
「そうですか。でも人それぞれですからねぇ」
「サスケ元気かな・・」
「さあ、どうでしょう」
この後、突然リンゴが食べたいと言い出したイタチさんのためにリンゴを買いに行きました。イタチさんはすりおろして感慨深げに食べていました。
ちなみにイタチさんが心配していた弟さんは、先ほどイタチさんが蹴ったり、月読したりしたりしてぼこぼこにしたばかりです。
この人は本当にめんどくさいです。
『干柿鬼鮫の日記』より
しきさんの「暁兄さんと暁メンバーのやり取り~」というのを読んでいて思い浮かんだものをがりがり。しかし、暁メンバーを把握し切れていない私・・いろいろおかしなところがあったらすみません。
「たったこれだけだ。何も難しいことはない」
そう言って教壇に立つ中忍の教師がかっとチョークを置いた。
そのあまりにもあっけなく、簡潔なのに明瞭な説明にイタチはぽかんとした。
学んでいるのは医療忍術の基礎。忍を志すのであれば致命傷を負わせる場所も、命を繋ぎとめるための治療法も知っていなければならない。基礎と言えど、決して簡単な内容ではない。しかし、この教師は授業中何度もポイントとなる場所で「たったこれだけ。覚えるのはこれだけだ」、「大事なのはこれだけ」と言った言葉を使った。普段であれば難しいと感じるはずの授業も、皆がどこかリラックスして聞いていたように思う。
今まで他の授業で教鞭をふるっていた教師たちは大した内容でもないのに妙に小難しい言葉で大げさに説明し、生徒を困惑させていた気がするのだが。
授業の終わり、イタチは教室を出ていく教師を呼び止めた。
「先生」
「イタチか。どうした?」
「先生はどうして『たったこれだけ』って言い方をするんですか?」
「あはは、そうだな。イタチにはいささか易しすぎる言い方だったかもしれないな」
そう言うと教師はぐりぐりとイタチの頭を撫でた。
「いえ、違います。むしろ・・いいと思います。みんな医療忍術は難しいって思いこんでるから。たったこれだけ覚えればいいって言われれば、難しいことじゃないって思える」
「そうか、ならよかったよ。まさにお前が言った通りなんだ。苦手な科目ができる原因ってさ、自分の得意不得意だけのせいじゃないんだ」
周りの人間がこの課題は難しい、自分はとても苦手だった。そういう意見を聞いているうちに知らず知らずのうちに苦手意識が芽生える。いざ、その課題に直面した時、無意識のうちに植え付けられた他人の意見によって自分にもできないかもしれないと思い込み、本来理解できるはずのものが理解しにくくなってしまう。それならば、その逆をすれば、多少難しい内容でも、マイナスのイメージを減らしてやることで身に付きやすくなるんじゃないか、そう考えてのことだと言った。
「思い込み・・」
「そう。人は他人の意見によって他人と自分を比較して、自分を認識する生き物だからね。時に他人から与えられた意見やイメージを自分の中にもあるものと思い込む。それは得意不得意にも影響を与えてるってのが私の意見だ。なにが好きで何が嫌いか、何が得意で何が不得意か。自分の中にある「本当」を見つけることっていうのもなかなか難しいことなんだと思うよ・・・って話が逸れてしまったね」
ごめんごめんとすまなさそうに笑うと、教師はイタチにだけ聞こえる小さな声で、
「とまあ、えらそうなことを言ったけど、これは私自身が自分のためにやってたことなんだ。私はもともと勉強が得意でなかったから、どうにか切り抜けられる方法がないかって思っているときに思いついたんだ。楽に勉強したかっただけなんだよ。でも他の奴らには言うなよ。」
そう言われてイタチは思わずふっと笑ってしまった。
安い宿のベッドに寝そべり、咳きこむ胸を押さえ、はあっと息を吐いた。
雨が薄い天井を叩く音がする。壁に掛けられた時計に目をやるが長針と短針の位置がぼやけて良く見えない。
また「進んだ」な、と目を擦った。
自分の中を這い回る不穏な影が日に日に存在を濃くしていくのを感じながら、イタチはふっといつかアカデミーの教師が使っていた言葉を思い出す。
たったこれだけ
俺がサスケのためにすべきこと
「たったこれだけ」
俺がサスケにしてやれること
たったこれだけ、だ。
たったこれだけ
いいようにも悪いようにも使える言葉ですね。
兄さんにとってはどちらだったのか。
もう一つのテーマは「思い込み」
「たったこれだけ」は高校の時、とっても尊敬していた英語の先生が実際に授業中に頻繁に使っていた言葉です。
少なくとも私は先生のこの言葉と授業で英語に対する考え方が変わりました。
タイトル通り働いてない兄さんです。かっこいい兄さんはどこにもいません。ご注意を!
「ただいま」
アパートの扉を開ける。暗い玄関の灯りをつけると、リビングへ通じている扉が開き、「お帰り、サスケ」とイタチが顔を出した。
リビングのテレビはゲームのスタート画面がちらついている。
また一日中ゲームしてやがったな、このニート!
「サスケ~寂しかったぞ~」
といってイタチが纏わりついてくる。
「うるせぇ!!べたべたくっつくな!!」
絡みついてくる腕を振り払うと
「サスケが冷たい・・」
そう言って奥の仏壇をちーんと鳴らした。
おい、んなくだらねえこと報告してんじゃねぇ。第一アンタのその姿の方が仏前にさらしたくない。
「昼はちゃんと食ったか?ってまた洗い物してねぇな!!夏場なんだから臭うだろうが!」
「夜一緒に洗えばいいだろう」
真顔で返されて俺は返す言葉もない。
はぁ~~と地の底まで響きそうなため息をついて、俺は買ってきた食材を冷蔵庫に入れていく。
「サスケ」
冷蔵庫の扉を閉め、振り返るとイタチがいた。
「・・・っ・・なんだよ」
「ただいまのチューは?」
「は?」
そう言って俺の腰に腕を回してくる。
「はなせ!これから飯作るんだから!」
「何を言うか!キスなんて1秒あれば十分だ!」
大の大人二人が騒ぎながら台所でキスがどうのと騒ぐなんて全くばかげている。バカげているんだが・・
「父さん、母さん。サスケがチューしてくれない~」
ちーん
「ああああ!!!もうわかったよ!!わかったから!!」
仏壇の前でこの世の終わりみたいな顔で落ち込むなよみっともない!
俺はイタチの顔を両手でがしっと掴むと半ばぶつけるように口付けた。
ほんと仏前でなにやってんだ・・
「ぷはっ!」
顔を離すと、イタチがにんまりと笑っている。まずい。このパターンは・・
「サスケ、夕飯より今はお前を食べたいんだが」
「じょ・・」
反論も身を引くのも遅かった。あっという間に俺はイタチに腕をとられ、押し倒された。
毎日ごろごろしてるのに何でこんなに素早いんだよ・・!
「なあ、いいか?」と俺の返事を促すように薄く笑う顔はニートのする顔じゃない。目の奥にくっきりと欲情を灯した雄の顔。誘うように襟元から覗く白い鎖骨が色っぽくて妙に胸がざわざついた。
くそっ!くそっ!ばか兄貴!
浴びせるように頬に額に施されるキスに抗えず、キスを受け入れ舌を差し出してまう。
「ん・・ん・・・兄さ・・」
ぎゅうっとイタチの背に腕を回せば
「サスケ、愛してる」
と囁かれる。そうして毎度毎度イタチにいいようにされてしまうのだ。
卑怯だ!こんなニートがこの世にいていいのか?
くそったれ!!
明日は絶対ハロワ連れていく!
絶対にだ!!
たまには兄さんが思いっきり我儘言ってもいいんじゃないかと・・
かっこ悪い兄さんでもきっとサスケは兄さんのことが大好きだよ!なんて。
本当にすみません。
天照に炙られてきます。
憫れ心は造り花
嘘の花弁(はなびら)
寄って、束ねて、茎に刺す
はらりはらりと花弁(はなびら)剥いで
滴る情の口に苦し
連理の枝に結わう睦言
灰と枯れても
なお肌に
淫する君の残り香が
いと愛おしと縋りつく
厨二が発病したようです。
「嘘の花弁」は兄さんのことです。
完全に趣味に走りました・・汗
どうぞお好きなように解釈してください
現代パラレル 教師兄さん(26歳)×高校生サスケ(18歳)
太陽がさんさんと照りつける季節を終え、残暑を潜り抜け、紅葉の季節になった。
あれだけ熱さに喘ぎ、衣服を煩わしく思うほど汗していたことが嘘のよう。今はマフラーが手放せないし、ズボンのポケットから手を出せない。
「なぁ、今日も遅いのかよ」
俺は目の前で明日の授業の準備をしているイタチに話しかける。
「お前はもう帰れ。下校時刻はもうとっくに過ぎているぞ」
俺になんて見向きもせずに、試験管や駒なんとかピペットやらを出したりしている。脇のコンロでやかんがしゅーと音をたてている。
「ここまで待ったんだから一緒に帰る」
「宿題が出てるだろう?早く帰って片付けろ」
「センセーみたいなこと言うのな」
かちん、とやかんの蓋が湯気に押し上げられて跳ね、閉じる。
「残念ながら俺は教師だ」
そう言って振り返ると、俺の傍にある薬品棚から茶色い瓶を取り出した。何の薬品なのかは見えなかった。
「でも、俺の兄さんだ」
「そんなお前は生徒で、俺の弟で、受験生だな」
少し意地悪に笑う。
ああ、今一番言われたくない言葉だな。
「なあ・・」
兄さんの白衣の袖を掴む。
「受験・・しなきゃいけないのか」
「それは、お前次第だろう」
そうだ。その通りだ。
受験なんてしなきゃいけないもんじゃない。しなくったって死なないし、進路は自分で選べるんだ。けれどそうじゃない。
本当に言いたいのは
卒業、しなきゃいけないのか?
こんなの口にするのもばかばかしい質問だ。
掴んだ裾を強く握りこむ。
兄さんが家にいる頃は兄さんがそばにいるのが当たり前だった。
兄さんは大学卒業と同時に家を出た。
兄さんのいない1年の生活を経て、追いかけるように兄さんが就職した私立高校を受験した。
3年間の執行猶予。
卒業すれば当たり前の日常は消える。
放課後に兄さんを待つことも、兄さんと話をすることも、こんな風に兄さんの白衣の袖を掴むことも・・
「サスケ、早く帰らないと母さんが心配するぞ」
やかんの蓋がかちかちと跳ね、しゅんしゅんと音を立てて湯気をはきだす。
「っ・・!あんたはもうずっと家に帰ってないじゃないか!」
そうだ。出て行って以来一度もイタチは家に帰ってこない。
「サスケ」
「あんたは俺がどんな気持ちで今まであの家で過ごしてきたかわかってないだろう!」
「サスケ」
「あんたはいつだってそうだ!!悪いなとか、時間ができたらなって誤魔化して家に帰ってくる気なんてさらさらないじゃないか!!」
なにが気に食わないんだよ。俺が嫌ならそう言えばいい。
俺がここに入学したことだってあんたには迷惑だったんだろう?
ぱたぱたと溢れ出す涙が床に落ちた。
なら、言ってくれよ。
じゃないと、俺はどこへも行けない。
「サスケ頼むから泣かないでくれないか」
指で涙を拭うと、イタチの唇が俺の唇に触れた。
「ん・・にいさ・・ン・・」
イタチの舌が侵入してきて俺の舌を絡めとり、ちゅっと軽く吸われた。
それだけで全身から力が抜けてへたり込んでしまいそうだった。
唇が離れた瞬間イタチは俺を抱きしめた。
俺の耳元に唇を寄せ、
「わかっただろう?だから俺は家には帰れない」
イタチは、そう囁いた。
ドルオタ兄さん×アイドルサスケ
KNH48コンサートツアー最終日から1週間がたった日曜日の午後、俺は駅前のス○バでホワイトカフェモカグランデサイズを飲みながら、ノーパソで様々なファンのブログを読み漁っていた。
どれも今回のツアーを称賛する内容であふれていて、思わず「その通り!!」と拍手を送りたくなるほど素晴らしい感想を書いている人もいた。
今日だけで何個拍手ボタンを押したかわからない。
iP●dから流れてくるのは彼らのデビュー曲「恋するニーハイ恋愛革命」。
その強烈なインパクトのタイトルは当時のアイドル業界に衝撃を与えた。
この歌はファンに根強い人気のある歌で、先週のコンサートアンコールでも流れ、会場の声援はドームの天井を突き破らんほどであった。俺も感動のあまり涙ぐんでしまったほどだ。
一通り馴染みのブログに目を通し、ファンサイトをチェックした後、俺は店を出た。
スクランブル交差点の巨大広告には来月発売予定のニューシングル「ためらいベイビーフェイス」のポスターがでかでかと貼られている。もちろんセンターはサスケだ。
今回の初回特典は新曲リリース記念イベント抽選券。しかもただの抽選券ではないと。この記念イベント後に、なんとメンバーと一緒に写真が撮れるのだ。
これはかなり熾烈な競争になることは必至だ。一体どれほどのファンがマキシシングルに金を費やすことになるのかと思うと末恐ろしい。
大通りを抜け、環状線の高架下まで来たとき、誰かにぶつかった。
「って~」
相手はもろに額ぶつけたらしく、額をおさえて、蹲っていた。
「すまない。ぼーっとしていた。立てるか?」
そう言って手を差し出すと、少年はすんなりと俺の手を掴んで立ち上がった。ぶつかった衝撃で外れてしまったサングラスを拾ってやる。
「これ、君の・・」
サングラスのない目の前の少年の顔を見て俺は絶句した。
「さ、サスケ・・?」
俺の目の前にいたのは首にライトグレーのストールを巻き、ゆったりとしたTシャツに黒のスキニーパンツをさらりと着こなしたサスケだった。
くどいようですが、続きます。
兄さんとサスケの中身が入れ替わっちゃったネタ
「これは一体・・不思議なこともあるものだな、サスケ」
と俺の顔と声で兄さんが言う。
「何呑気なこと言ってんだよ!不思議とかそういう問題じゃねえだろ!」
と俺が兄さんの顔と声で言う。変な感じだ・・
「ああ、そうだな。このままでは俺の任務にお前が行かなくてはならなくなってしまう」
「そう言う問題?!」
互いの中身が入れ替わってしまったというのに兄さんの落ち着きぶりはなんだ?もしかして・・・
「兄さん、まさか原因がわかっているのか?」
「いや、全然」
オィィィィィィィィ!!!!じゃあなんでそんなに落ち着いてんだよ?結構一大事じゃねえのか?一大事だと思ってるぜ!俺は!!
「原因がわからない事態にいたずらに騒いだところで解決するわけではないからな」
・・・・妙に正論ぶつけてきやがって。
「それは・・そうだけど・・」
「とりあえず幻術の類ではないようだな」
そう言って兄さんが写輪眼でまじまじと俺の体(正確にはイタチの体だが)を見つめている。
なんだろう。兄さんが俺の写輪眼使ってるのって変な感じだな。
・・・・・・・・・待てよ。
ということは・・
「万華鏡写輪眼!!」
「サスケ?」
「やっぱりそうだ!兄さんの体だから兄さんの写輪眼だ!」
「え、ああ。そうだな」
俺の言ってることに対してクエスチョンマークが飛びまくっている。
「ちょっと試してくる」
そう言って俺は窓から飛び出した。
「は?っておい!サスケ!!?」
兄さんの体で兄さんの万華鏡写輪眼が使えるならいろいろ試してみたい!!
とりあえず暗部で兄さんの任務を確認して、俺が代わりに任務に行けば兄さんの仕事は減るし、兄さんの力を試せる!まさに一石二鳥!
「はははははは!!!いい目だ!!兄さん!!!!」
その日、柄にもない高笑いで疾走するイタチの姿と、血相を変えて自分の名前を叫びながらイタチを追いかけるサスケの姿が目撃され、木の葉の里の人間をひどく混乱させたという。
サスケの写輪眼を使う兄さんを書きたかったのです。